「指圧」という言葉は、どこから来たのか。
ふだん何気なく使っているこの二文字に、はっきりとした始まりがあることを、知っている人は意外と少ないかもしれません。
連載のはじまりに、まずはその話をさせてください。
人が人の体に手をあてる。
それ自体は、世界中で、ずっと昔から続いてきた営みです。
ただ、「指圧」という名前で、ひとつの体系としてかたちになったのは、1925年のことでした。
この年、浪越徳治郎が、指で圧すという行為に「指圧」と名づけました。
英語では finger pressure と訳され、いまでは Shiatsu として世界に知られています。
徳治郎は、しばしば modern shiatsu の創始者として語られる人です。
なぜ、わざわざ名前をつけたのか。
名前がなければ、人に伝えることも、次の代へ渡すこともできないからです。
指で圧す。
手のひらで圧す。
体重をのせて圧す。
その一つひとつに、強さがあり、順序があり、間があります。
それをひとまとめにして、誰かに手渡せるかたちにする。
そのために「指圧」という言葉が必要だったのだと、浪越指圧サロンは受け止めています。
言葉が生まれた瞬間に、それは技術になり、文化になりました。
ここで、ひとつだけ立ち止まってお伝えしたいことがあります。
指圧でいう「圧」とは、何なのか。
それは、人の手と、体重の移動から生まれる圧のことです。
機械が生み出す一定の力とは、そもそも種類がちがう、と浪越指圧サロンは考えています。
どちらが上か下か、という話ではありません。
成り立ちがちがう、という話です。
人の手は、その日の体の様子を受け取りながら、強さや角度や深さを少しずつ変えていきます。
押す側の体重が、どう乗っているか。
受ける側の呼吸が、どう動いているか。
そのやりとりの中で、圧はそのつど生まれ直します。
浪越指圧サロンは、帝国ホテル東京の本館中2階にあります。
1925年に名づけられた指圧という言葉と、その圧のかたちを、いまも手で受け継いでいる場所です。
徳治郎から数えて四代目が、同じ言葉の意味を、毎日の施術の中で確かめています。
受け継ぐというのは、額に飾ることではなく、毎朝その手を動かしつづけることなのだと、四代目はよく口にします。
連載の第一回は、ここまでにします。
次回は、「圧」という一文字を、もう少し近くから見ていきます。
言葉の出どころから、手の中の話へ。
どうぞ、ゆっくりお付き合いください。