前回の終わりに、次回は「圧」という一文字をもう少し近くから見ていきますとお伝えしました。
言葉の出どころから手の中の話へ、というお約束です。
ここからその続きを果たしていきます。
「圧」と書いてわたしたちが指しているものは、辞書にある「押すこと」だけではありません。
指圧でいう「圧」は、押す側の体重が足の裏から腰を通り腕を抜けて指先へと移っていく、その道のりすべてがひとつになったものです。
ここで指圧の始まりに少しだけ戻らせてください。
浪越徳治郎は六歳のとき、病に伏せた母の体に手をあてました。
なでるよりさするより、硬くなったところを垂直にひと点で圧したときに母がいちばん楽だと言ったそうです。
その母の言葉が、指圧という言葉のいちばん奥に今も流れています。
手のひらには触れたものを受け取る小さな感覚器がいくつも備わっていて、その日の体のかたさや呼吸をうけとりながら強さと角度を少しずつ変えていきます。
あらかじめ決められた一定の力とは、ここが根本からちがうとわたしたちは考えています。
そしてわたしたちが何より大切にしているのは、お客様の体を圧すことがそのままお一人おひとりの気持ちの背中をそっと押すことにつながる、という願いです。
こわばった肩がゆるむと、ふしぎと心まで少しほどけていきます。
だからこそ体と心の両方を、手のひらで静かに支えていきたいと思っています。
一文字の「圧」の中には、母を想う手の記憶が今も流れています。
次回はその手が「どこを圧すのか」、点の話へと進みます。
どうぞゆっくりお付き合いください。